夏は旅の季節。
旅のお供にと、なんとなく手にとった本に思わぬ感銘を受けることがあります。
小説の世界にどっぷり浸かるのもいいですが、さらりとしたエッセイを楽しむのもいいですよね。
今日は旅にぴったりな一冊をお届けします。
あらすじ
「旅を続けていると、ぼんやり眼をやった風景のさらに向こうに、不意に私たちの内部の風景が見えてくることがある」。マラケシュのホテルで見た「待つ女」、ローマで旅愁を覚えた終着駅、カトマンズで胸をしめつけられた裸電球――。旅先で撮った八十一枚の写真から、人生の機微を描いた物語が立ち上がる。沢木耕太郎「もうひとつの旅の本」。
沢木耕太郎さんとの出会い
最寄り駅前の小さな書店。その小さな書店のラインナップから絶対に無くならない本、それが沢木耕太郎さんの『深夜特急』でした。
子どもの頃から本好きだったので書店にはしょっちゅう行っていました。本を買っても買わなくても、ちょっとどきどきしながらまだ読めない大人向けの本棚をぐるりと見て回るのが好きでした。
『深夜特急』の文字が今日もあるなあ。と立ち止まってはそのまま立ち去る。そんなことの繰り返し。
沢木耕太郎さんという作家の名前は知ってはいたけど、深夜という言葉がなんとなく近寄りがたくて、当時小学生、中学生だった私はじっと背表紙を見ているだけでした。
沢木耕太郎さんの作品をちゃんと手に取ったのは大学生の頃。大学の図書館で『深夜特急』と再会しました。
えい!と手にとって裏表紙を見る。小説じゃなくてノンフィクションなのか。パラパラとページをめくり始めると刺激的な旅の数々。そこからは夢中になって読みました。
私は女だけど、もし男に生まれて深夜特急を読んでいたらバックパックひとつで旅に出ていただろうに。
小心者の私は自宅や図書館やカフェの椅子に座って、文字を追いかけて旅を楽しませてもらいました。
そんな学生時代を経て、社会人になり、ロマンあふれる旅とは無縁の生活を送っていました。
ですが、本の中で出会った色鮮やかな風景はずっと心に残っています。
今回数年ぶりに沢木耕太郎さんの作品を読んで当時の記憶が蘇ってきました。
ここで感想
今回選んだのは『旅の窓』。タイトルに惹かれて温泉旅行のお供に連れて行きました。
道中の電車に乗っている間に読んだり、旅館の窓際で読んだり。旅行に行って帰るまでに読み終わる長さなのも、今の私にはちょうど良かったです。
写真と短い文章が見開きワンセットになっています。
順番に読んでいってもいいし、パラパラとめくって目についたところを読むのも楽しいです。
ただのスナップ写真といえばそれまでなのですが、訪れた国の空気感が一緒に切り取られている感じがしてとても気に入っています。
旅先で会った人々の写真もたくさんあったのですが、なんとなく人々の眼差しに力があると思いました。
中でもものを思う人たちの、少し憂いがあるようなその表情がとても心に残りました。きっと親しい友人や家族、恋人にすら見せることはない、ひとりでいるときだけの表情なんだろうという瞬間を切り取った写真が印象的です。
写真。真実を写すと書くけど、あながち間違いじゃないんだろうなあと思った次第です。
また、旅先では現地の人にとっては日常の風景も旅人からすれば非日常の景色です。なんでも絵になるなあと思いながら読みました。
ふとした瞬間に美しい景色に出会えたときの感動はひとしおだろうと思います。
やっぱり沢木耕太郎さんの本を読むと旅に出たくなります。毎年1回でもいいから行きたい場所に行けるくらいは仕事を頑張っておこうと思った今日この頃です。
それではまた。